NA.home通信 281号
29.jun.2008

 給料が入ったらレコードを買いに行く。休日の楽しみの一つだった。
 何が欲しいわけでなく、レコード屋でジャケットを見ながら迷いに迷って、一枚のアルバムを買う。その頃の値段は2000円位。修行中で安月給の身にはバカにならない金額である。
 視聴して買う人もいるが、私はしない。真っ新なレコード盤が良いのだ。その真っ新な盤に針を落とす。それで始めて音を聞く。
 AB面全部聞いて、「いい買い物をした」と思えるアルバムは3割くらい。3回に2回ウキウキがブルーに変わる。
 無理矢理数回は聞くが、やっぱり駄作は駄作。それでも翌月、給料が入るとレコード屋へ走る。

 時代は変わりCDに。ジャケットは小さくなり、ビニールでパックされ、歌詞カードを見ることさえ出来ない。
 反面情報はふんだんになり、外れを引く確率は少なくなった。
 おじさん世代は音楽を楽しむのは車の中、という人が多い。家にそういう自分だけの空間が無いのだろう。今のカーオーディオはハードディスク内蔵で、一度流すと自動的に録音して、CDを入れなくても繰り返し聞ける。レンタルショップで借りてきて一度聞けば、どんどん蓄積されるのだ。
 「だから俺はCDは買わない」という友人がいる。
 「ジャケットがなきゃ」と私は反論する。
 最近はネット配信がCD売上に匹敵するほどだと聞く。これを知らないのも片手落ちだと思いやってみた。
 何も準備は要らず、クリックするだけでパソコンにソフトがインストールされ、欲しい音楽を選んで「購入」をクリックすれば入ってくる。空のCDを差し込めば、ミュージックCD出来上がり。
 アルバム一枚分2000円、ジャケットも歌詞カードもない。でも音は遜色がない。これで良いのだろうか。
 私の字でタイトルの書かれた裸のCDを見て、千円札数枚握ってレコード屋へ走った頃を思い出した。

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