NA.home通信 452号
22.Jul.2018

 何につけ、本物を見ることは大事なことである。
 幼い娘に絵の才能を見た親は、本物の絵を見せることだと決め、美術館めぐりをする。そうこうするうちに親の方も美術を見る目が育ち、わざわざ見に行ったり、旅先で見つけた美術館にフラッと入ったりする。
 讃岐の金毘羅さん、拝殿から少し下がったところにお屋敷があり、伊藤若冲の障壁画などがあるというので800円払って入った。ハードな石段を登った先でこのようなものがあるのは一服の清涼剤よりありがたい。
 建物も良いが、若冲どこ?「若冲のある奥書院は非公開でございます」。何ということだ。
 で、その少し下には高橋由一館。有名な鮭の絵がポスターになっていた。「おっ!ここでこれが見られるか」若冲に会えなかったからこれを見て行こう。
 どの作品も細かい筆で、素晴らしいが、鮭がない。あれ?小さな字で書いてあった。
 「この作品は貸し出し中です」ふざけるな、金返せ!。
 
 昨日、香川での耐震リフォーム達人塾の翌日。金毘羅さんに行ってきた。同行者は構造の先生。美術に全く関心無く、若冲も由一もご存じない。その方が幸せだ。裏切られない。
 
 学生の時行ったヨーロッパ建築視察旅行。その日はイタリアの田舎町、午後一時を回り腹ぺこ。
 もう一つ見学したらランチだと言うので、渋々バスを降り、教会の脇の路地を入る。窓のないツルッとした壁の古い建物のドアをくぐった。教室2,3個分の天井高い長方形の部屋、食堂だったらしい。
 その突き当たりの壁の上方を見て一同、「えーっ」「何で?」驚嘆の叫び。ダビンチの「最後の晩餐」である。
 添乗員は何を見学するかを言わない。行程の印刷にもない。やりやがったな。
 
 何につけ、本物を知ることは良いことだ。どうやらダビンチよりも添乗員のやり方だったかもしれない。旅の同行者に驚きを与えることが何より楽しい。

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